アメリカン・ビューティー

(C)UIP映画
おかしくて、ちょっと悲しくて、なんとなく身につまされる… 人はだれでも二つの顔を持っている。理性で覆われた表の顔と、生物としての欲望をストレートに出そうとする裏の顔。そのギャップがストレスとなり、ある限度を超えると一挙に爆発し、人格のカタストロフが起こる。我々現代人は、この微妙なバランスの上でなんとなくその日その日を過ごしているにすぎない。一見、平和で幸せそうな家庭にも、そういう危険への可能性は間違いなく秘められている。  アメリカン ビューティーというのはバラの花の名前で、真紅の花弁が美しく、アメリカの家庭の庭に咲いている最も一般的な花のことだそうで、つまりこの映画に登場する家庭こそ、アメリカ家庭のステロタイプなのだという、痛烈な皮肉を込めたタイトルになっているのだろう。夫、妻、娘、そのボーイフレンド、その父親…。みんなありまえで、でもちょっとおかしい。そしてそのおかしさこそ、もしかしたら我々に共通の、二つの顔のバランス調整の過程を表現しているのかもしれない。最近の世相を見れば、と大げさに構えることもないが、どうもこのバランス調整が下手な、あるいはそれが出来ない人が増えてきているように感じられる。そしてこれは、きっとアメリカでも同じ状況なのだろう。そんな世の中をシニカルに眺めて、一つのエンタテインメントに仕上げてしまうアメリカ映画の、さらにその作品が有力な映画賞を受賞するという映画界全体の奥の深さは、おおいに見習うべきかもしれない。「アメリカン ビューティー」まぎれもなく、今があり、豊かな批評精神にあふれた秀作である。

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