犯人をでっち上げたのは「見た目の判断」だった!?2本の映画が描く“冤罪”の発端。何事も見た目で判断してはならないという教訓。

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1月23日(木)

1月17日(金)に待望の日本公開を迎え大ヒット上映中のクリント・イーストウッド最新作『リチャード・ジュエル』、そして2月28日(金)公開、マイケル・Bジョーダン主演で贈る奇跡の実話『黒い司法 0%からの奇跡』と、実際に起きた冤罪事件をテーマに取り扱った作品が2ヶ月連続で公開される。2つの映画が描く冤罪事件の発端には、とある共通点が。今を生きる我々に数々の問いを投げかける2本の実話を紹介します!

★『リチャード・ジュエル』は、1996年7月、国際的な祭典が行われていたアトランタで起こった爆破事件をめぐる冤罪を描くクリント・イーストウッド監督の最新作である。

爆弾の第一発見者として現場で避難誘導に尽力したリチャード・ジュエルは、勇気あるヒーローとしてメディアに紹介される。FBIは国家の威信をかけて犯人の特定を急ぐが、決定的な証拠も見つからないまま捜査は停滞していた。そんな時、ピードモンド大学の学長から一本の電話が掛かる。「英雄報道されている男は、我が校の警備員時代に、法執行官を気取って学外で過剰な警備(路上で荷物検査)を行ったことでクビにした。このまま黙っていて、もしも彼の自作自演の犯行だとしたら…」と密告したのだ。

当時、FBIの捜査官たちは「プロファイリング捜査」を指針としていた。原作となる記事を書いたマリー・ブレナーは「当時、法執行機関はプロファイリング論にこだわっていた。爆破事件後大混乱していたFBIでは、爆発物の発見者である“とても優しくて、ちょっとばかり変わっている男”を見て、『ほら、孤独な爆弾犯のプロファイリングに合う!』と考えた」と指摘する。33歳で独身、母と二人暮らしのリチャードは、法執行官として働き人々を助ける仕事をめざす男だ。射撃場に通って的を狙うのもいつか警官になった時のためだ。ドーナツが大好きで肥満体質、その体型のせいで年下の若者たちに小馬鹿にされるのは序の口、人によっては全く相手にしてくれないこともある。でも、いつも人のために働きたいと願う心優しい男だ。だが、ルールを守らない人間に対しては厳しく、大学警備員時代のように融通が利かないこともあった。この密告を受けたFBIは、捜査が進んでいることを示すためにリチャードを第一容疑者と断定し、「捜査情報」をメディアにリーク、実名報道を招く。この日から88日間、リチャードは“冤罪”という悪夢に直面することになる。

★2月28日から日本公開となる『黒い司法 0%からの奇跡』は、1987年6月、アラバマ州のモンロービルで18歳の少女を殺害した容疑で逮捕され、起訴後に死刑を宣告されたウォルター・マクリミアンの冤罪を描く。

木を切りパルプ加工する仕事を生業とする彼は、その日も森で働いていた。帰路、封鎖され道路で車を止めた彼を、容赦なく車外に引きずり出した警官は、彼の愛称「ジョニー・D、お前が犯人だな」と告げるや問答無用に逮捕する。収監から15か月後、ウォルターは犯罪者ラルフ・マイヤーズと共に起訴され移送される。その数日後、ラルフが「私はウォルターが犯した殺人の共謀者」だと証言、ウォルターの死刑が確定する。少女がクリーニング店で惨殺されたという猟奇的殺人事件は、白人住民たちに大きな不安を与えたことは明白だ。一刻も早く町の平穏を取り戻すために地元警察は犯人検挙を急いだ。極論すれば、犯人は誰でも良かったのだ。冤罪犯という難役に挑んだジェイミー・フォックスは、「人種ということが大きな要素である南部で、黒人が育つことがどんなものなのか。(出身地の)テキサスでの私の人生にはつねにその要素が絡んでいた。私は今も故郷を愛しているが、侮蔑的な言葉を面と向かって言われ、白人が多く住む地区ではいつも頭を低くしていなければならなかったことを覚えている」と、自身の経験を役柄に重ねた。

第91回アカデミー賞®作品賞に輝いた『グリーンブック』でも描かれたように、アメリカ南部は白人による黒人差別が根強く、格差社会が確立されたエリアで、メキシコ国境が近いアラバマ州も同様だ。この地域でアフリカ系アメリカ人は侮蔑され続けてきた。ウォルターの逮捕から死刑確定までの期間に、20人を越える黒人がアリバイ証言したとされるがすべて無視された。彼らの発言は黙殺され、一度出た判決は決して覆されることがない。サブタイトルの「0%」とは、冤罪を覆せる可能性が全くない絶望的な状況を表している。ウォルターはいつ執行されるか分からない刑を背負い、絶望と苦渋に満ちた歳月を刑務所で過ごすことになる。

★2本の映画が描く“冤罪”の発端。何事も見た目で判断してはならないという教訓。

冤罪をテーマにした2作品では、俄には信じがたい事実がいくつも重なり合う。FBIは、彼らの依頼人である約3億人のアメリカ国民に対して、捜査の進捗を報告する義務があると感じていた。密告によって急浮上したリチャードへの嫌疑は急展開を見せる。太っていて気気弱なのに融通が利かない、低所得者層の白人男性でミリオタ、結婚もせずに警官に憧れる彼は、当時のプロファイリング捜査では容疑者にうってつけの存在と映ったのだ。
アラバマ警察にとっても、検事にとっても、白人社会の平穏を取り戻すことが急務だった。猟奇的な殺人事件の犯人像は、アフロヘアで頬一杯にヒゲを蓄えた通称「ジョニー・D」こと、ウォルター・マクリミアンはドンピシャだった。白人の法執行官たちは、黒人である死刑囚の口は自分たちの社会では開くことがないと盲信している。このふたつの事件に共通するのは、結論を急いだ人間たちによって、人が見た目で判断されたという、あってはならない事実だ。

★冤罪という悪夢に襲われた容疑者を、曇りなき瞳で見つめた弁護士がふたり。

絶望の淵に追い込まれたふたりの前には、常識破りの弁護士が救いの手を差し伸べる。『リチャード・ジュエル』では、オスカー俳優サム・ロックウェルが演じるワトソン・ブライアントだ。10年振りにリチャードと再会したワトソンは、このままでは国家(FBI)とメディアによってリチャードの人生が破壊されてしまうと気づく。そして、巨大な権力に対して猛烈な反撃を開始する。嘘発見器でリチャードの潔白を確認し、「容疑者はリチャード」と爆弾犯扱いした地元メディアに殴り込む。かと思えば、母ボビを説得して大統領に嘆願する記者会見を行うなど、あらゆる手立てを講じるのだ。

『黒い司法 0%からの奇跡』に登場する弁護士は、人々を救うことを生きる糧に決めたハーバード卒の若き弁護士ブライアン・スティーブンソンだ。決して屈しない男を演じるのは、『フルートベール駅で』の好演によって一躍注目され、『クリード』シリーズ2作品、『ブラックパンサー』と着実にキャリアを積み上げてきたマイケル・B・ジョーダン。黒人蔑視の侮辱に耐え、爆弾を仕掛けたという脅迫電話を受け、証人が見つかったと思えば妨害される。差別と不正が渦巻く中、再審請求という奇跡の可能性に挑む歴史的な闘いを力強く演じている。

ふたりの弁護士の活躍は映画をご覧いただくとして、最後にリチャード・ジュエルが弁護士ワトソンに伝えた言葉を記しておきたい。なぜ弁護を依頼したのかと問うワトソンに、リチャードはこんな返事をする。「10年前に一緒に働いていたとき、誰もが僕を侮蔑していた。僕のことをまともな人間として扱ってくれたのはワトソン、あなただけだった」と。

2本の実話が描く“真実”をスクリーンで目撃しよう!






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作品紹介

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